料理と器―立原正秋の世界
2005年8月26日 衣食住後年、母とこのことをよく話した。夜食をとると太るし、睡眠も妨げられるし、良いことはなかったが、思い出が残った。残された家族が、思い出として話すことができるのは、長い年月がたち、私たちのうちに確かな位置をしめたからに違いない。「仕事が進んでいないとき」であったのか、ふいに家族に声をかけ夜食に誘う小説家の父、立原正秋。それはどこか苦痛で、緊張感を強いられる夜更けの食卓であったが、いま思えば大切な時間だった・・・とつづる息子の潮氏のまえがきが、胸にしみる。父上が生前好んだ食卓を再現したのは、料理人になった息子、潮氏。とにかく細部まで細やかな本。料理がおいしそうなのは当然だとしても、器の趣味まで超一流。李朝白磁や高麗青磁の、こっくりとした肌合いの、なんと上品なことよ。10年前に出版されたものとは思えない錆びない美しさに、嘆息。
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