檀流クッキング 入門日記
チチは自らを「料理の元帥」と称し、母を一等兵、私たち下っ端を二等兵と呼んでいました。お偉いおかたというのは、たいていの場合、一段高い所にドッカと座り、命令下せど体は動かさず、というのが通例なれど、この元帥は自ら買いカゴを引っ下げ、街の市場に買出しに行き、自ら先頭に立ち、包丁を握り鍋をかき混ぜます。だから階級の違いは、あくまでも腕前の差の表現であって、立ち働くことにおいては、この家では元帥も二等兵も変わりなく、いえ、まめまめしさという点では元帥が一番であったでしょう。
結婚当初、檀家の父子が食べることに大騒ぎしている様を見て、「何て馬鹿ばかしい親子だろう」と本気で思ったという晴子さん。でも、いつの間にか、それが「楽しさ」に変わっていったのだとか。そんな晴子さんが日々のあれこれを書きつづったエッセイ集。この本、絶版なのが口惜しいくらいに面白いんです。 最初の章なんて特に。

聖徳太子ならいざ知らず、並みの人間には、そう一度にアッチャコッチャ気をくばれるものではないのです。ひとっとこをワアーッと輝かせちゃうと、目はただひたすらそちらを見つめ、他のことはまるで気がつかない。おいしい料理ってのは、そのくらいのすごさで人の関心を集めることができる要素を持っているのです。台所で、バッタカバッタカ大騒ぎして動きまわっていると、皆もうびっくりして、障子の桟にホコリがたまっているなんてこと、気がつきもしません。嘘だと思うなら、ためしに一度やってごらんなさい。

主婦たる気負いがあまりない、いいかげんさが良い加減。おそらく、うちのハハがこの本を読んだら、早々に高々と勝利宣言をすることでしょう。私の家事は間違っていなかった、と!(そう、確かに幼少期、家のなかがとっ散らかっていることに、娘は気づいておりませんでした・・・)

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