檀流ワイルドクッキング
「オーイ、タロー、起きてクダサーイ。おいしいものができましたよ」夜中の二時だろうが三時だろうが、そんなことはおかまいなしだ。人がせっかくいい気持ちで寝ているというのに、父の大きな声に起こされる。「アーア、またか」と眠い目をこすりながら台所に行くと、「どうです。キレイでしょう、今日のタンは。あなたはシアワセモンですね。こんなに素敵なごちそうが食べられて。オイシクできましたよ。さあ、食べなさい。いま食べないと時世に遅れますよ」と、父は上機嫌で完成したばかりの料理を勧める。
檀一雄といえば、世間一般には『火宅の人』というイメージが強いのかもしれませんが、私にとっては『檀流クッキング』のひと以外の何者でもありません。(やれやれ、幼少期の刷り込みというのは永遠なり)そして、この飄々とした檀氏の口ぶりが何ともいえず魅力的で、ついついご家族の方々の本も買い揃えてしまうのですね。これは息子の太郎さんの料理本ですが、ときおり顔をのぞかせるお父様が、やっぱり素敵。
「女どもは、冷たいものですネー。一家の主が夜を徹して働いているというのに、ダーレも手伝ってはくれません」
これは「テーブルの上に置いた山ほどのネギの束を、夜中に黙々とひとりで刻んでいた」檀一雄氏の弁。なんだか、いいですネー。

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