(テルアヴィヴの大学で、私の日本映画の講義を熱心に聴講してくれたレア君はいった)十八や十九で、世間のことなど何も知らない子供が、いきなり実弾の入った銃を渡され、命令に背くものは容赦なく撃ち殺していいと教えられたとき、何が起きると思う。生まれて始めて権力を与えられた子供は、子供に特有の粗雑さや無邪気な暴力への嗜好から、それを玩具のように弄んでしまう。彼は気がつかないうちに精神に荒廃を来してしまうだろう。イスラエルの若者が国家主義の犠牲者だというのは、そのような意味なのだ。除隊の後も、彼らがひとたび手にした権力の亡霊に捕われ、道徳的な頽廃に陥ってしまうことを、いったいこれまで誰が告発してきたというのだ・・・わたしがこの二十五歳の青年が抱いている冷静な分析能力に、ある種の希望を抱かなかったといえば、それは嘘になるだろう。
パレスチナやボスニアをめぐり、思索を深めた四方田犬彦さんの最新刊。前半のイスラエル見聞録に出てくるレア君の言葉が、あとまで余韻を残す。

出自の違いで細分化されるユダヤ人社会。移民した一世と、二世以降のあいだに広がる深い溝etc.etcユダヤ人とアラブ人の対立だけではなく、ユダヤ社会の錯綜する現実(イスラエル・アラブやロシア系、エチオピア系移民)についても言及されていて、非常に刺激的、読みごたえ十二分の★★★★ 以前、映画『D.I.』を見たときに、意味がよくわからなかった部分が、ようやくなんとなく理解できた。

コメント