大半のマジョリティは自らの祖先と同じ国に生まれ、その国に「国民」として属している。すなわち、祖国、故国、母国の三者が一致しており、そのことを当然と考えているのである。ところがディアスポラはそうではない。祖国、故国、母国が一致しないだけではなく、しばしばその三者における支配的な文化観や価値観が相違し、相克しているのである。--出自の共同体から追い立てられ、離散を余儀なくされたディアスポラたち。自らもそのひとりである在日朝鮮人2世の著者が、韓国やヨーロッパへの旅のなかで出会った事物や文学と向きあいながら、ディアスポラを生み出した近代とは何だったのか、近代以後の人間はどこへ行くのかを思索する紀行文
「韓国籍」はまだしも、「朝鮮籍」って何?と尋ねられることが時々あるのだけれど、外国人登録令や日韓条約を持ち出して、その経緯を説明すると、たいがい非常に驚かれる。(意外にみんな知らないのに、逆にこっちのほうが驚くのだが)この本のプロローグでは、著者が自らの出自を踏まえながら「在日朝鮮人とは?」を説明していて、とても読みやすくわかりやすい。プリーモ・レーヴィの墓を訪ねて、イスラエルへ行った際の紀行文「死を想う日」も、じわじわと物悲しい。

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