カラフルな色・デザイン・素材、キュート、セクシー、ユニセックス-今では当たり前のように手に入るこうした下着を、誰も思いつきもしない時代に投げかけ、時代の寵児となった鴨居羊子。新聞記者から下着デザイナーになり、絵を描き、文章を書き、フラメンコを踊り、料理を作り、天真爛漫で、食いしん坊で、キュートな気持ちを持ち続けた彼女のエッセイをまとめたコレクション第一巻。
前半は「わたしは驢馬に乗って下着をうりにゆきたい」。新聞記者時代から、下着デザイナーとして注目を集めるまで・・・一時代を駆け抜けた鴨居羊子の胸のうちがつづられている。先駆者としての気負いと、表現者としてのアクの強さに、いささか圧倒されるのだけれど、それだけじゃない何かがひとを惹きつけるのだろう。それはたぶん、羨望のまなざしで仰ぎ見られるアーティストには似つかわしくない、孤独。本当は不器用で、寂しがりやで、ただただ愛らしい女性なのにと、同性が思わず肩入れしたくなる、そんなひとなのですよ、鴨居さんって。巻末で江國香織さんが「大胆な小心者」と表現してるけど、非常に同感。いまをときめく下着ブランド、PJのカリスマ女社長にはなさそうな、しめっぽさが魅力です。
弟の玲も死んでとうとう私は一人きりになった。兄明も玲も私も子供がいない。文字通り私の家族は消えてしまった。か細い私の記憶の中にしか鴨居家は棲んでいない。たった一人きりになって考えてみると、母が本能的な直感で、自分の人生のすべてをかけて過去にばかり執着した理由がわかるような気もする。
後半は自らの半生をつづった「わたしのものよ」。鴨居さんの言わんとしたことは、結びの一文に集約されていると思う。最後の最後で、ますます切なくなってしまった。「今度生まれ変わったらみないっしょに住もうよ。もう二度と変な失敗しないからね。これは生いたちの記でなく、失敗の記でもある。父母と兄と弟のためこの本を捧げます」

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