完璧な人間がいないのと同様に、完成された関係などはない。これはあきらめの言葉ではなく、ましてや絶望のそれではない。未完だからこそ、希望もあるのだ。誰かといっしょに暮らしていれば、互いに戸惑ったり驚いたり、小さな対立はまぬがれない。だが、それらが何ひとつない静寂を想像してみれば、寂しさとわずらわしさのどちらが幸福に近いか、答えは明白だ。私は人間関係が苦手な性格だが、それでも他者との関係を抜きにした幸福を想像することはできない。ルームシェア、学生寮、間借り下宿、住み込み、マンション、コミューンetc.etc.―様々なかたちで「いっしょに暮らす」ひとたちに取材を試みて、「ひとつ屋根の下で暮らす」ための秘訣を探る、というまことに興味深い本。著者自身、人間関係が不得手だからこそ、「いっしょに暮らす」ことについて、他者と自分とのあいだに亀裂が生じないためのコツについて、深く考えてしまうタチらしい。(はぁ・・・同感)「子供の頃、修学旅行が近づいてくるのが心配だった。朝から晩まで、夜寝る時間まで他人といっしょに過ごすことが怖かった」というあとがきも、他人事とは思えず。「確固な絆は人を縛るが、不確かな絆は人を思慮深くする」というのは、ぢつに名言だと思います。
コメント