逃亡くそたわけ

2005年4月8日 小説
あたしは帰る家を失った気分になった。徹夜明けのような冴えた感じが続き、ろくに寝ないのに身体は元気だった。どうしようどうしよう夏が終わってしまう。二十一歳の夏は一度しか来ないのにどうしよう。この狂った頭の中には逆巻く濁流があって、いてもたってもいられないのだった。プリズンで夏を終わらせるのだけは嫌だった。
無理やり入院させられた精神病院から逃亡を企てた「あたし」と「なごやん」。おんぼろ車で九州の田舎町を駆け抜けるふたりの前に広がる、ひと夏の物語。

どうでもいいことだが、この本のなかに出てくる「おんぼろ車」=マツダのルーチェに、私も乗っていたことがある。それも、免許を取得したばかりの大学生の頃。「つぶしてもいいから」と最初にあてがわれた車が、真っ赤なルーチェだったのだ。父が知人から譲りうけたとのことで、代金は5万円也。映画『アメリカン・グラフティ』に出てきそうなアメ車ばりの、どでかい車だった。最初見たとき、「悪い冗談だろ・・・」と思った。車庫入れなんて不可能に近い大きさだったし、だいいちこんな車、いまどきどこを見ても、走っていないのだ。

「こんな車に乗ってたら、樹木希林に間違われる!」
と半泣きをして懇願したが、父は「きききりん」が誰であるかを知らず、「若葉マークが文句を言うことなかれ」と譲らないのだった。

とはいえ「1度乗ると、2度バッテリーが上がる」というような危険な代物だったので、結局、車検を迎える前に廃車にしてしまった。(中途半端な)高級感のただよう革張りの車内を、いまでもまざまざと思い出す。。。あの頃はワタシも若かった。いまなら、サングラスをかけて、あの真っ赤なルーチェをがんがん乗りこなせそうな気がする。ちょっとばかし残念だ。

 

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