そこにはありとあらゆるものが瓶詰めにされて、壁一面に並べられていた。すべてのものが腐敗から逃れ、時間が完全に停止していた。こんな不可思議な風景を見たことのある人は、世の中にいるだろうか?こんなに奇妙で美しい風景が人知れず存在しているのを、私は世の中に伝えないではいられなくなったのである。
ゴミ御殿、猫屋敷、奇行家族etc.etc.―日本ではじめて設置された、福祉現場の係長級医師のポストについた著者が訪問した「時間の止まった家」の数々。都会のはざまで人目にふれない、超高齢化社会の風景から「家」のもつ困難性を考える。

コロモジラミがびっしりたかっている一人暮らしの老人。近隣からの苦情を尻目に、若き日の夢を封印したまま、倒壊寸前のバラック小屋に住み続ける男性。家族全員が共依存のため「保育園」のような生活をしている老夫婦と成人した子どもたちetc.etc.―この手の事例報告は「知的好奇心」だけで描かれれば、俗悪なものになりかねないが、相手に対する「共感」が主軸になっているので、読んでいてとても考えさせられた。著者は30歳になったばかりの女性若手医師。よっぽど器の大きなひとなのだろうと思う。春日武彦さんが書評を書いていたので読んでみたが、期待以上で★★★★  

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