いまに生きる日本人は「見えないものは存在しない」と錯覚している。暗い現実、汚れた廃棄物など「見たくないもの」を隠し、人工の美と善で周囲を飾ろうとする。本書は「隠された現実」を直視する。気まぐれなペットブームの行き着く先、現代人の美食の陰に葬られる夥しい生命、そして人の死を総括する遺書。誠実な勇気と重い使命感に殉ずる思いで著者はここに描き尽くした。(本書推薦文より)
不要となったペットを処分する施設や、家畜を食肉加工する屠場を渡り歩き、現場のひとたちの声を丹念に掬いあげた読みごたえのあるルポ。森達也さんの『いのちの食べかた』に勝るとも劣らず★★★★

「近代化社会のなかでは『死』は周到に隠され、あたかも存在しないかのように見えないところに隠されている。最近の若者がヒリヒリとした『生』の実感を持てないのは、それが原因だ」というようなことを、もっともらしく言う大学の先生はごまんといるだろう。だけど実際に「死の現場」におもむいて、屠畜解体作業に従事するひとたちや、公衆衛生にたずさわる獣医さんの話を聞きながら、自分で考える、などという酔狂なことをするひとはめったにいないはず。著者は毎日新聞の記者。高みの見物ではなく、自らの言葉でつむがれた文章に、周囲はぐうの音も出なかったというのが非常にうなずける。

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