パリの裏町で暮らす13歳のユダヤ人少年モモと、彼のアパルトマンの向かいで小さな食料品店を営むトルコ移民の老人イブラヒム。家族の愛に恵まれない不幸な境遇の中で思春期を迎え、大人への階段を一歩ずつ上っていくモモ。そんな彼の成長に手を貸すことに生き甲斐を見出し、孤独な生活から脱していくイブラヒム。愛も知らずに人生の春を迎えた少年が、人生の晩秋にさしかかった老人と出逢い、限りない愛情を注がれ、人生の楽しみ・喜びを知っていく・・・

またまた京都シネマセレクション。ふたりの孤独はけして生半可なものではないのだけれど、映画のなかには60年代のゴキゲンな音楽と歌と踊りがあふれている。
いまある足を大切にしなきゃな。
靴は取替えがきく。足は取替えがきかない。

イブラヒムおじさんが「モモに伝えたいこと」というのは、些細なことのように見えて無限の広がりを持っている。だからモモは少しずつ強くなれたのな。

物語の後半、ふたりはトルコに向かう最後の旅に出る。いくつもの宗派の寺院を訪れ、自分の目で見て、匂いを感じて、神の存在を知るモモ。ある寺院では、白い衣装をまとったひとたちが、祭壇の前でくるくると舞っている。風をはらんで白い布地が弧を描いて広がる様子は、息をのむほどうつくしい。見惚れているモモの耳もとで、イブラヒムおじさんはこんなふうにささやく。「グルグルまわれば、心のなかに神が宿る。これは祈りだ」

ユダヤ教とイスラム教―厳格な戒律に縛られるのではなく、人生をゆたかにするためにコーランを読むイブラヒムおじさんの言葉は、国境を越えて、時間を超えて、私たちの胸にひびく。 

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